鈴木心 写真家|インタビュー
「ソナー」から1年。カメラを通して見た世の中は?
1年前の鈴木心さんの『ひとつぼ展』の展示は、かなり分厚いポートフォリオの中から、たった1点の展示。一瞬を切り取られた風景は、ひとつぼのスペースに大きく引き伸ばされ、静かに勝負を挑んでいました。公開審査会で、宮本隆司さんは「1点だけの展示はマイナスポイント」としながらも「今後の鈴木さんは見てみたい」と発言。尾仲浩二さんは「こういう場所によく出会えたなぁ」とスナップの上手さに感心。平木収さんは実力を認めつつも「もっと冒険してもいいのでは?」と少々もの足りなさげ。原耕一さんは「僕のイチオシは鈴木さん」と迷いはない。そんな鈴木さん、この1年でカメラを手に、どんなことが見えてきたんでしょうか?
写真を始めた理由
高校を卒業したあと2年間遊んでいて、親にもなんとかしろって言われて、取りあえず学校へ行こうと思って。コンパクトカメラでバンド仲間とか撮っていたし、写真でもいいかなっていうのがあった。でもやるからには、まわりの呑気に学校へ来ている人たちには、負けたくなかった。いろんな写真家を知るようになって、プロヴォークとかマーティン・パーとかみたいに、スナップを撮るようになっていった。そのころから、撮っているものは変わってないですね。今はもう解散した、アメリカのレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンってバンドがいて、バンドなのに音楽を通じて政治活動みたいなことをしてるんです。彼らは稼いだお金でゲリラ活動を支援するし、不当に労働させられている人、人種差別されている人たちのデモ活動に参加したりもする。そういうのを見て、自分の主義主張をはっきりさせることが大切なんだって思った。写真は、僕の意思を表現するのに、すごく適しているもの。今は写真でやっているのが面白いんですけど、極端に言えば活動家みたいなものでもいい。写真って物理的な武器にはなりえないけど、写真の内容でなにかと闘うことはできる。当然、僕も攻撃されますよ。だから写真によって、闘っていくしかないですよね。
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地球と月
1年前は、写真は、僕にとってはソナー、つまり音波を発して世の中を知る道具だった。ただ自分が面白いと思ったものを感覚的に撮っていたけど、撮った写真を言葉にして考えてみたら、出来過ぎた世の中を疑っているんだなって気が付いた。もしかしたら、僕たちって、映画の『マトリックス』のように実世界は別のところにあって、これはテレビゲームじゃないかなって思う。なんでかって、それは誰も証明できないから。ゲームだとしたら、それに気がつかないくらい、ものすごくうまく構築されている可能性もある。疑ってこそ、面白く見えてくることもあるし、逆に疑わないからこそスムーズに生きていける。月は、地球の周りを回っているのは当たり前だけど、それは教わって理解していること。自分では確かめてない。自分たちが月に住んでいれば上空を通過する地球を眺めて、あっちが廻っているって考えたかもしれない、そんな意味もこめて「サテライト」ってタイトルが浮かんだんです。
ちょっと違う見え方
僕の写真を見て、普段目にしているものと何か違うな、と思ってくれればいいなと思う。工事現場の写真を、たとえばオブジェみたいとか、遺跡みたいとか、それがいろんな見え方をすれば嬉しい。僕の見方が、ちょっと悪意を持って世の中を見ているって言われることもあります。自分は月にいて、地球で人がせこせこ頑張っているのを、遠い場所から見ているっていう感覚はある。どこか客観的に見ている。個展では、初めて僕の写真を見る人に、どう思うか聞いてみたいですね。間違いなく今の自分の現在進行形のものだから。みんなの感想が楽しみです。
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1980年生まれ
東京工芸大学芸術学部写真学科卒業
現在(株)アマナ所属
[受賞歴]
2004年 エプソンカラーイメージングコンテスト藤原新也賞
2005年 ニコンサロンユーナ21出展/第24回『ひとつぼ展』グランプリ/第28回写真新世紀 佳作(森山大道選)/第27回フォックスタルボット 第3席/エプソンカラーイメージングコンテスト 入選
[個展]
2005年「construction site」ニコンサロン新宿/「ソナー」ガーディアン・ガーデン/「サテライト」平遥国際写真芸術祭(中国)
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